個人事業主に士業の顧問はいらないって本当?顧問料の相場はいくら?

個人事業主の開業時の相談に乗っていると、よく「顧問は必要ですか?」という質問があります。起業するときや個人事業主として仕事をはじめるとき、会社設立のときなどは、税理士や弁護士などの顧問をつける印象があるかもしれません。

ただ、個人事業主の場合は必ずしも顧問は必要ありません。むしろ、個人事業主として仕事をはじめる場合、士業の顧問をつけていないケースの方が多数派だと言えるでしょう。結論としては、個人事業主をスタートするからといって、「士業の顧問はいりません」。また、個人事業主をはじめるときに「いきなり顧問をつけることはおすすめしません」。

個人事業主をはじめるときに士業の顧問がいらないのはなぜなのでしょう。個人事業主に顧問がいらない理由や、例外的に士業の顧問をつけた方が良いケースなどを解説します。

基本的に個人事業主には顧問はいらない(結論)

個人事業主として仕事をするからといって、弁護士や税理士などの士業を顧問にする必要はありません。私も個人でずっと仕事をしていますが、経験上、今まで税理士や弁護士が必要になるような事態にはなっていません。個人的な経験からも「顧問はいらないだろう」「顧問をつけても、顧問を頼ることがまずない」が結論です。

ただ、例外的に弁護士や税理士などの顧問をすぐにつけた方が良いケースもあります。なので、個人事業主に顧問が不要な理由と、例外的に顧問を急いで見つけた方が良いケースを順番に説明して行きます。

個人事業主に顧問がいらない5つの理由

長年個人として仕事をしてきた私が「個人事業主に顧問はいらない」「個人事業主をはじめるにあたって、いきなり顧問をつける必要はない」と言い切る理由は5つあります。

1.個人事業主をはじめた当初は売上/収入が少ないから

個人事業主をはじめた当初や、個人事業主をはじめてから2~3年は売上/収入とも少なく、余計なものに回すお金はありません。また、個人事業主をはじめた当初は顧問以外に準備しなければならないものがたくさんあります。

たとえば、パソコン。準備するものの少ない業種でも、最低限ネットのできるパソコンくらいは必要です。後は印刷機など、周辺機器なども必要になることでしょう。こういった必要なものを準備するための資金や、必要なもののリース/ローンなどを考えると、「弁護士や税理士などの顧問をお願いするお金がない」という個人事業主は多いはずです。

個人事業主をやるため、あるいは独立開業のために資金を貯めていたとしても、他に優先すべきことはいくらでもありますし、貯めていた資金を顧問への支払いのためにすっからかんにしていては意味がありません。すぐに資金難に陥り、個人事業主としての仕事の継続が難しくなります。

個人事業主をはじめた当初はお金がない。余裕が出るのは、ある程度仕事を続けてからである。顧問に支払うお金があるなら、必要な機器の準備など他にやるべきことはたくさんある。金銭的な理由から、個人事業主をはじめるからといって、いきなり顧問をつける必要はありません。

2.顧問に頼むことがなく費用分でマイナスになるから

個人事業主をはじめてすぐ、あるいは売上/収入が少ない状態で士業を顧問にしても、顧問に支払う分でマイナスになってしまうことでしょう。

税理士や弁護士と個人事業主が顧問契約を結んだ場合、顧問料の相場は次のようになっています。

顧問を依頼する士業 顧問料の相場
税理士 月1万円~3万円(年12万円~36万円)
弁護士 月3万円~5万円(年36万円~60万円)
社会保険労務士 月2万円~4万円(年24万円~48万円)

顧問料はあくまで「基本的な相談や税金、法律などのチェック」の費用です。トラブルなどがあれば、別途費用がかかると考えた方がいいでしょう。弁護士や税理士の費用相場は地域によっても変わってきますので、顧問料の相場がもっと高くなる地域もあります。

たとえばはじめたばかりの個人事業主で、売上が200万円ほどだとします。売上200万円から顧問料の相場を払うとなると、相当苦しいと言えるでしょう。売上が300万円でも、年これだけの費用を負担するのはあまり現実的ではありません。他の経費なども考えると大きな赤字になる可能性もあります。

また、顧問料を負担したからといって、必ず相談したいことが出てくるとは限りません。はじめたばかりの個人事業主や売上規模の小さな個人事業主だと、あまり相談することもなく顧問料が無駄になる可能性もあります。

個人事業主が顧問契約してもあまり顧問に頼むことがない。顧問料の負担が大きく、赤字拡大のリスクがある。以上のような理由から、基本的には個人事業主に顧問は不要です。

3.個人事業主に慣れてくると大体のことが自分でできてしまうから

個人事業主は基本的に何をやるのも「自分」です。

資金計画を立てるのも自分ですし、資金調達も自分。仕事をする平社員的な立ち位置の存在も自分ですし、経理も自分です。営業も自分。社長も自分。税務も自分。カスタマーセンターも自分。個人事業主は会社ではなく自分で仕事を引き受けて自分の名前でこなさなければいけませんから、仕事において「一人何役もやる」「に全部自分でやる」が基本です。

個人事業主になった当初は戸惑うかもしれませんが、やがて自分自身でいろいろな仕事、雑務、手続きをこなすことに慣れてきますし、知識も増えます。

個人事業主として「自分で何でもやる」という状態に慣れてくると、大体の手続きや処理、問題解決などは自分でできるようになってきます。そのため、ちょっとしたことで顧問を頼る必要もなくなるわけです。

簡単な税金や法律、手続きの知識などはすぐ覚える方も多いようですし、実際に私も仕事をしている中で自然と覚えました。周囲の個人事業主の知人たちにも話を聞いてみると「大体自分でやれるようになる」「自分でやってしまう」「自然と税金や法律の知識も覚えてしまう」という回答でした。

個人事業主に慣れると自分でやるようになる。手続きやトラブルに関する知識も増えてきて、大抵のことには自分で対処できるようになる。個人事業主として経験を積むうちに、あまり顧問を必要としなくなるわけです。

4.法律や税金のことで困ったときに専門家を頼ればいいから

個人事業主がある程度自分でいろいろできるようになっても、どうしても税金や法律の専門知識が必要になることもあります。法律や税金の専門的な知識が必要になった場合、やはり税理士や弁護士などのプロを頼ろうと考えることでしょう。プロを頼るなら「顧問契約しておいた方が便利では?」と思うかもしれません。

法律や税金のことで専門知識が必要になったとしても、そう頻繁に必要になるでしょうか? 必要になったときに税理士や弁護士に相談すればいいのではないでしょうか?

特に顧問契約を結んでいなくても税理士や弁護士に相談できますので、必要になったら別途相談/依頼すればいいだけです。困ったときだけ頼ればいいので、顧問としては特に必要ありません。

5.自分で士業資格を取ってしまう個人事業主もいる

私もそのひとりですが、個人事業主をしていて(あるいは、フリーランスや個人事業主になろうとして)士業資格を取ってしまう人もいます。

税理士や行政書士、司法書士などの士業資格を持っていると、自分でいろいろな法的な仕事、税金関係の処理ができてしまいますし、専門的な知識があるので「顧問がいないから困る」ということがほぼありません。

個人事業主は自分で何でもやるひとり会社のようなところがあります。自分で税金や各種手続きなどいろいろやっているうちに、法律や税金の知識が深まり、実際に行政書士や司法書士などを取得する人も少なくありません。さらに、そうして取得した資格を第二、第三の業種として仕事にしてしまう人もいます。

顧問をつける。あるいは顧問をつけずに頑張る。このようなかたちである程度ひとりで仕事を頑張りながら、自分自身が士業を取得するのも方法のひとつです。

実際に私の友人(個人事業主)の中にも、個人事業主で知識をつけ、士業を取得した人がいます。それなりに現実的な方法ではないでしょうか。

例外的に顧問をつけた方が良いケース

個人事業主には基本的に顧問は不要だと思います。ですが、例外的に次のようなケースでは早期に顧問をつけた方が良いと言えます。

例外①個人事業主としての売上が多いケース

個人事業主としての売上がいきなり1,000万円を超える。今まで税金に触れたことがないため、売上の処理や税務などがよく分からず困っている。このようなケースでは、個人事業主をはじめてすぐでも、税理士などの専門家に顧問をお願いした方が安心です。税金の未払いや手続きミスでペナルティを食らう可能性があるからです。

また、個人事業主になっていきなり大きな企業や歴史ある企業と取引することになったケースや、大きな金額の契約が関わるようなケースでも、弁護士など法律/契約に強い専門家に顧問をお願いした方が安心です。契約トラブルになることがある他、立場の強い企業側から無理な契約を通される可能性があるからです。

例外②多数の業種で個人事業主をしているケース

個人事業主は一業種だけでなく、二業種以上の多数の業種で仕事をしていることがあります。

たとえば私の友人ですが、ライターをしながら別の専門的な資格でアドバイスや相談なども受けています。また別の友人はファイナンシャルプランナーをしながら、物つくり関係の個人事業主もしています。個人事業主やフリーランスで多業種の仕事をしている人は、意外と珍しくありません。多業種で仕事をすると収入や売上も増えますので、それなりにメリットもあります。

ただ、個人事業主が多業種を手がけていると、どうしても税金関係が煩雑になります。契約なども、業種ごとに特徴が出てくるので、なかなか大変です。

多業種を手がける個人事業主の場合は、弁護士や税理士を顧問にして税務や契約をサポートしてもらうのも良いかもしれません。契約トラブルや税務処理のミスを防げます。

例外③顧問契約にメリットを感じるケース

顧問契約には「いつでもプロに相談できる」というメリットがあります。税理士や弁護士などの士業が顧問として側についていてくれるということには、やはり安心感があります。

加えて、弁護士や税理士、社会保険労務士などの顧問がいる場合、取引相手が無理難題を言い出しにくくなります。個人事業主は立場が弱くなりがちです。スタートしたての個人事業主は特に立場が弱く、経験不足に付け込まれてしまう可能性もあります。

顧問がいると、取引相手が「弱みに付け込もうとしている」「無理難題を通そうとしている」という場合にも、専門家がしっかりアドバイスしてくれます。そういった点でも安心感があると言えるでしょう。

顧問がいることに安心感を覚える。専門家に守ってもらいたい。専門家に都度、アドバイスを受けたい。このようなケースでは顧問をお願いしても良いかもしれません。

例外④自分では税金などにタッチしたくない

税金や法律、契約などのことを自分で調べるのは面倒。こうした各種処理を丸投げしたい。自分は仕事だけに専心したい。このようなケースでも、顧問契約を結んでも良いかもしれません。

個人事業主によって「どこまでが自分の仕事か」のスタンスが違います。「契約についてチェックするのは自分の仕事じゃない!」と考える人も、少なからずいます。こういった考え方の人は、士業などに脇を固めてもらった方が安心です。

まとめ|個人事業主のリスク対策は他の方法がおすすめ

「個人事業主は顧問をつけるべきか?」について解説しました。

個人事業主には特に顧問は必要ないと考えます。必要なときに必要な専門家を利用してください。例外的に顧問が必要なケース以外では特に「顧問はいらない」が結論です。

個人事業主が顧問をつけることは「専門家に相談できる」「すぐに専門家を頼れる」という点でメリットがあります。リスク対策にもなります。ただ、リスク対策には他の方法もありますので、あえてスタートしたての個人事業主が税理士や弁護士と顧問契約を結ぶ必要はありません。「売上が大きくなったら検討」で問題ありません。

個人事業主のリスク対策としては、弁護士保険など保険の活用などはいかがでしょう。自分で士業資格を取ってしまうのもリスク対策方法です。

いろいろなリスク対策方法がありますので、ご自身でよく考え、メリットがあれば税理士や弁護士に顧問の依頼をするのが良いでしょう。