行政書士が実際に見た飲食店開業の失敗理由・事例

行政書士は許認可や行政への提出書類に関わる関係上、飲食店を開業したい方から相談を受けることが少なくありません。

私は若手の行政書士ですがそれなりの年数、行政書士として仕事をしています。そのため、「飲食店を開業したい」という同年代の方から「リタイアメント後に飲食店を開業したいと思っている」というシニア世代の方まで、いろいろな相談・案件を受けます。ただ、中には飲食店の開業準備中に開業を断念するケースや、残念なことに開業後に廃業してしまうケースなどもあるのが現実です。

飲食店を開業したいという方に、各種の手続きをお手伝いしている行政書士の目から見た「失敗事例・理由」について解説します。飲食店の開業を検討している方や飲食方面で起業を考えている方はぜひ参考にしていただければと思います。

飲食店の開業プロセスと流れ

飲食店の開業は短くても1年ほどの期間が必要になります。

1年ほどの期間を使って飲食店のコンセプトから必要な許認可の手続き、内装、資金準備などを進めることになります。

飲食店の基本的な開業プロセス・流れは次の通りです。

1.飲食店の基本的なコンセプトを決める

2.飲食店の事業計画書を作成する

3.飲食店の店舗(物件)探しをする

4.物件の内装・設備・外観の工事をする

5.メニューを作成する

6.食材や備品の仕入れ先を探して契約する

7.従業員を採用する

8.開業に必要な手続きをする

9.ロールプレイングや宣伝広告

10.飲食店の開業

この流れの中にもっと細かなプロセスが存在します。

また、飲食店開業の際に資金が足りない場合は、この流れの中にない資金調達も必要になります。

行政書士は手続きに関与する

行政書士は飲食店開業の中でも「開業に必要な手続き」に関与することがあります。

飲食店は店内や食材の準備が整えば勝手に営業して良いわけではありません。行政から「飲食店として営業して良い」という許可をもらわなければならないのです。行政から営業許可を受けるためには必要書類を準備して提出しなければいけません。

営業許可を受けるための手続きは個人でもできます。ただ、行政に提出する書類と手続き内容の煩雑さから行政書士に依頼する方が多いと言えるでしょう。行政書士に手続きを任せれば、自分は開業準備の方に専念できるというメリットもあります。

営業許可に関連する知識として、個人事業主・飲食店などの資金調達や営業方法などに詳しい行政書士もいます。そのため、飲食店の開業に際して行政書士に手続き以外もいろいろ相談することも少なくありません。私のところにも開業手続きを含め、飲食店関係の相談がよくあります。

飲食店開業で失敗する実例

ここからは飲食店開業のよくある事例について説明します。

行政書士の目から見てよくあるのは次のような失敗事例です。

事例①飲食店を開業するための時間が足りない

飲食店のよくある失敗事例として「時間の足りなさ」が挙げられます。

飲食店の開業に関する行政手続きや書類作成を行政書士に依頼しても、それで開業者の負担がゼロになるわけではありません。食材の取引先を探したり、内装やメニューについて準備したりと、やることは山のようにあります。山のようにやることがあり、その中でごく一部を行政書士がお手伝いするという感じです。

飲食店を開業する際に仕事をしており、仕事の合間に飲食店開業準備をしている場合は開業準備に回し時間が足りなくなることも珍しくありません。中にはどうしても時間が足りないために開業自体をやめてしまうことや、「もっと時間が取れるようになってから」「仕事がひと段落してから」と、開業を年単位でずらすこともあります。

事例②飲食店の開業資金が足りない

飲食店の開業をする際に多くの方がぶつかるのが「資金の問題」です。

行政書士として飲食店の開業準備のお手伝いをしていると、資金の話題が頻出します。それだけ飲食店の開業では「お金」が問題になると言えるでしょう。

開業資金は飲食店を開くと決めたときに準備する方も多いと言えます。また、融資を利用するなど、何らかのかたちで資金調達することも少なくありません。

ただ、内装や食材にこだわっているとそれだけお金がかかります。中には資金計画で安く見積もってしまい、「準備していたお金では足りない」となってしまうこともあるのです。食材や内装などの資金については考えていても、初期費用や人件費について甘く見積もっているケースや、あまり考えていなかったようなケースもあります。いずれにしろ、飲食店開業において資金準備・資金調達は重要なポイントです。

飲食店開業に着手してみたものの、資金が足りず「開業までたどり着けない」「開業準備のお金が足りない」となってしまい、飲食店を諦めてしまうこともあります。なお、中には飲食店開業失敗とはいかないまでも、計画変更を余儀なくされるケースもあります。

事例③飲食店開業の融資が受けられなかった

飲食店の開業資金の準備・調達に関係のある事柄ですが、「融資が受けられなくて開業を断念」というケースもあります。

金融機関などに融資を申し込んでも必ずお金を貸してもらえるとは限りません。開業資金の足りない分は融資で賄おうと思っている場合や、運転資金に融資を使おうと思っている場合は融資で審査落ちすると開業の計画に影響が出てしまいます。それどころか、開業しても飲食店として営業できないという事態に陥る可能性すらあるのです。

銀行融資以外にもいろいろな資金調達方法があるため、あえて銀行融資にこだわる必要はありません。ですが、それらの融資方法も使えない場合は飲食店開業を失敗する原因になります。

事例④飲食店の宣伝広告が不十分だった

飲食店を開店してもお客さんが来ないと経営は厳しい状況に追い込まれます。飲食店の開業準備に追われて、開店の日までに、ろくに店の宣伝広告ができないケースも少なくありません。スタートから宣伝広告が上手くいかず、その後もなかなか客足が伸びない関係で飲食店開業を失敗する事例があります。

事例⑤開業はできたもののライバルに負けてしまった

飲食店は全業種の中で最も廃業率が高いと言われています。開業準備はスムーズに進んでも、その後にライバルから客を奪われてしまい経営が立ち行かなくなるなどの事情によって廃業することがあります。

飲食店は3年以内に7割、5年で8割、10年で9割が廃業するという厳しい業界です。行政書士として開業手続きをお手伝いしても、そのうちの10軒に9軒は10年で廃業する結果になります。

開業時にかなり綿密に計画を立てていた飲食店開業者でも泣く泣く廃業に至ることも珍しくないわけですから、計画がずさんである場合や「とりあえず開業すれば上手く行く」と思っていた場合などは、ますます苦しいと言えるでしょう。

実際に知っているお店がすぐに閉店していることを目にすることもあり、行政書士として悲しい気持ちになったこともあります。

最後に

飲食店を開業する主な理由としては、

・資金

・宣伝不足

・ライバル

などがあります。

行政書士として飲食店の開業手続きをお手伝いしていると、実際に失敗するパターンを見てしまうことがあります。この他にも飲食店開業で失敗する要因はいろいろありますが、主な失敗原因である資金や宣伝などについては、開業計画を立てる際により入念に考えておくべきではないでしょうか。

特に近年は物価上昇による仕入れコストの増加などにより、当初の資金計画では対処できないケースなどもあります。資金なども含めた開業準備の方に専念するためにも、行政書士という専門家を有効活用していただければと思います。